中村明日美子著『Jの総て』のあらすじと魅力を紹介!

Jの総て_サムネ

※ネタバレにご注意ください※

見せられないよ

Jは収監されていた刑務所でポールと再び出会いますが、生きる気力などを失ってしまったJは、看守にされるがままレイプされてしまいます。そのことを知ったポールはJに状況を聞き、訴えてもいいと諭そうとします。しかし、Jは今まで溜めていたことを吐き出すように癇癪を起してしまいます。

「やりたそうだったから、やらしてやっただけだもん 全然強姦じゃないもん 今までやったのなんかみんなそうよ!!(略)こんな変態とやりたい奴がいるんならバンバンザイよ!!来るもの拒まずやりまくったわよ!! もういいでしょ!?誰だってよかったの なんだってよかったの もうほっといてよ もう…!」

Jの総て_名シーン

©太田出版 Jの総て

このセリフは今までのことも全部、J自身が「やらせてあげた。強姦じゃない」と思い込むことで弱い自分を守っていたのだと、解釈すると本当に切ないです。

「もう二度と会いたくない」と言うJの言葉にポールはショックを受けますが、この喧嘩をきっかけに、物語は一気に急展開をします。
ポール自身がゲイであることを自覚し、育ててくれた叔母にその事実やJとの関係を言えるようになりました。

その後、Jの自殺未遂を止めるという事件もありましたが、そこで再び出会ってから初めてお互い「好き」と言う言葉を口にします。

Jの総て_名シーン

©太田出版 Jの総て

また、このポールとJの物語には、他にも係わりの深い人物がいます。ニューヨーク編で登場した、付き人のリタです。

リタはJの子どもを身ごもり、一人で出産をしていました。ここで、1巻の冒頭に繋がります。

「あたし、ふたりのママから生まれたのよ」という女性のセリフです。

数年後の姿が巻末に掲載されています。

ジーン(Jとリタの娘)はリタのことはママ、Jのことはママ・Jと呼び、ポールはジーンのことを娘と言っているので、おそらくジーンは二人のママと、一人のパパに育てられたのでしょう。

夫を撃ち殺し、心を病んでしまったJの母親も最後に登場します。Jは女性の恰好をしたままママの隣に座って歌を歌っています。親子のわだかまりが解消されて、Jもありのまま母の前に出ることが出来たのでしょうか。このラストは胸がぎゅっと締め付けられます。

また最後にはJとポールの同棲の様子も描かれています。これがもう、本当にいい。今までの暗い感じが一切なく、明るくて少し馬鹿馬鹿しいとさえ思える話なのですが、あ~Jは幸せになったのだな、と実感できます。

Jの総て まとめ

萌えやらBLやら一切抜きで、真面目に語ります!

Jの総ての連載が開始された2004年頃は、ゲイ・レズビアンなどにまだ馴染みが薄かった時代であったと記憶しています。最近になって、LGBT・トランスジェンダーなどの言葉を多く聞くようになったなぁーというのが私個人の感想です。

Jの総ての舞台である1950~1960年代…いくら自由の国アメリカと言え、その頃は今以上にジャンダー問題に関しての馴染みは薄かったでしょう。実際、Jは子どもの頃からオカマと揶揄され嘲笑されています。それはJが成長しても嘲笑される対象として変わりませんでした。

Jとリタが口喧嘩をした際にも、まだ偏見があることが窺えます。

リタ:「自分は男なのに男が好きなんじゃん!」
J:「あたしは男じゃないもん!!」

そう言ってJは泣き崩れます。Jは自分のことを頻繁に「オカマ」と表現しますが、性同一性障害(またはトランスジェンダー)という言葉は出来て比較的新しいので、その頃はオカマと表現するしかなかったのではないかと思っています。

Jの総て_リタとj

©太田出版 Jの総て

Jの総ては発売当初から人気はありましたし、知ってる人は知ってるし好きだよ…というような漫画でした。でも私としては、トランスジェンダーやLGBTに理解が示されはじめた今だからこそ読んで欲しい漫画だと思います。

中村明日美子先生は巻末に「強くてかわいいオカマが描きたい。それが動機でした」と書かれていましたが、それ以外の思惑もあるんじゃないかと、考えずにはいられません。自分を受け入れて幸せを手にすることの難しさ、努力や挫折をJの総ては少しだけ教えてくれるような気がします。

ただ、リアルがJの総てのようであるかと言えば、そうじゃないことも多いと思いますので、あくまでもジェンダー問題をテーマにしたフィクションであることをご理解ください。

Jの総ては現在、新装版も発売されていますので、是非機会がありましたら手に取ってみてください。

Jの総て(1)

Jの総て(1)

  • 中村 明日美子
  • 太田出版

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